「いい天気ね」

額に手をかざして、母親が空を見上げた。それにつられて、僕も空を見上げた。

どこまでも果てしなく広がる青空には、薄い雲が流れていた。真上にある太陽からまばゆい日差しが降りそそぎ、芝生一面の緑を明るく照らしていた。暑さが残る、九月中頃の季節は、日中は気温が二十五度近くまで上がる。涼しい風が吹くたびに、公園にはえている雑草が揺れる。それと同時に、風に乗って土の香りがが僕の鼻腔まで運ばれる。

「………私、怒ってないからね」

「え!」

「あなたがこの先、誰と幸せになろうと、私は怒ってないからね。だって私たちは、一度結ばれた、〝家族〟なんだから」

笑顔を浮かべて言った母親の瞳には、どこか哀しい色が浮かんでいた。

「家族………」

口をパクパク動かして、父親は母親に視線を向けた。

「今まで、〝家族〟を支えてくれてありがとうね。お父さん」

母親の口から出た感謝の言葉を聞いて、僕たちが〝家族〟でいられるのが今日で最後なんだと悲しく思った。