カバンからお財布を取り出して、森井くんの元へと歩み寄る。

そんな私に気づいた森井くんは眉根を寄せて「どうかした?」と聞いてきた。


「あの!」

私の声に森井くんの周りにいた人たちが口を閉ざし、沈黙が流れる。

想像以上に注目を浴びてしまったけれど、ここまできたら言うしかない。



「ジュースを! か、買わせてください!」

勢いよく言ってしまい、血の気が引いていく。言い方を間違えてしまった。


「は? え、どういうこと?」

また大事な部分が抜けてしまっているので、森井くんの表情がますます険しくなっていく。

周りの人たちが「慎に貢ぎたい宣言?」「それともパシリ?」と騒めいている。

このままでは勘違いされてしまう。



「あ、あの、違うの。その……お礼に貰ってほしくて」

「お礼ってなんの?」

「き、昨日の……」



森井くんにとっては大したことじゃないのかもしれない。

だけど、私にとってはすごく助かったことで感謝してもしきれない。


髪のことだけじゃなくて、お母さんとのことだって森井くんがいてくれたから話せたんだ。