行っちゃった……。


視線を落とすと、そこに残されていたのは、スポーツブランドのロゴがプリントされた青いハンカチ。



「あ、どうしよう……」



使って……って。

名前も顔もわからないし……返せないのに……。



戸惑いながらも手に取ると、柔らかな感触が指先を包んだ。


どうしてだろう。


無性に懐かしさを覚えて。

……胸が震えて。


自分のハンカチを持ってなかったわけじゃないけど、気づけばそれを濡れた頬にのせていた。



「あったかい……」



無意識に、言葉がこぼれる。


そのあたたかさは、まるでお兄ちゃんが涙をぬぐってくれているようだった……。