「なんか忘れ物でもしたの?」

「えっと、なんだっけ……そう、忘れ物というか」



教室に入ってすぐ、置き去りのスマホに意識を持っていかれたせいで、自分がここに来た目的が頭から飛んでしまっていた。


そこに、“有名”な本多くんが現れたんだから、なおさら平常心じゃいられない。



「あたしは、ロッカーに折りたたみ傘を置きっぱなしにしてたから取りに来て……、取りに来ました」

「あー、そういえば明日、雨とか言ってたっけ。おれも忘れないようにしないと」


こうやってふたりきりで話すのはたぶん初めて。
他のクラスメイトと話すよりも、ずっと緊張する。


「本多くんは1回家に帰ってからきたの?」

「ううん、帰ってないよ」


なんでかって。

彼は、本当にたくさんの……黒い噂が絶えない人だから。