「はぁっ? 何言って」
「うわぁ、あたし何気に今超いいこと思いついた! 憧れの〝三条課長〟と結婚できたら嬉しいんでしょ? 笑留、言質は取ったからね!」
 ビシッと人差し指を突き立てた麗が、満面の笑みを浮かべて瞳を輝かせた。
 あたしは一度だって麗の前で憧れてる、なんて言ったことはない。
 本当のことを言えば、それはもう三条課長と結婚できるなんて夢で見るのもおこがましいくらいで、もしも何て考えられないほど嬉しい。
 けれど、そんなの出来るはずがない。相手にだって選ぶ権利というものがあるのだから。
 悪戯を思いついたみたいな顔をする麗には、嫌な予感しかしない。
「言質って……そんな大げさな」
「大げさじゃないわよっ! 少なくとも、あたしと英臣にとっては!」
 麗はテーブルを叩かんばかりの勢いだ。
「だからなんなの?」
「笑留ってば鈍いなぁ……だからさ、笑留が英臣と付き合ってるフリしてくれれば、英臣の方から婚約断らせることできるじゃない!? ノリノリなのはうちの親だし、英臣に恋人がいるって知ってまで婚約押し通そうとはしないもの」
 麗は一体何を言っているんだろう。
 彼女のことは大好きだ。美人であることを鼻にかけたりしないし、誰かをバカにしたりもしない。
 だから、嫌になる……とまではいかないが、こういう時だけは、麗が自分とは違う人種だと感じてしまう。
 今まで、きっと思い通りにならなかったことなんて、一度もないんだろう。自分に自信があって、明るくて、可愛くて、麗を嫌いな男性なんているはずがないから。
 あたしが、あの人の隣になんて立てるがわけない。あたしが隣に並んだら、視聴者だってテレビを消すくらいのレベルで悲惨なことになってしまう。麗は自分が綺麗だから、きっとあたしの気持ちを理解するのは難しいんだろう。
 麗と比べて劣等感ばかりの自分が嫌になるけど、それぐらいお似合いの二人だから。
 麗のあとにどうしてあんなのと付きあったの、なんて噂されているところを、別に付きあってもいないのに簡単に想像できる。
「麗がそんなこと言ったって、三条課長は麗と本気で付き合いたいって思ってるかもしれないじゃない……」
「それはない。だって英臣、あたしが付き合ってる彼知ってるし……っていうか、あいつのタイプあたしみたいなのと正反対だから」
 正反対って、ブスで自分に自信がなくて、他人を見たら羨ましいばかり。
 そんなあたしみたいな女がタイプだとでも言うのか。
 そんなの、絶対にありえない──。
「麗、そんなことよりランチの時間終わっちゃうよ? ほら、仕事戻ろ」
 放置され、すっかり冷えて美味しくなくなったパスタを急いで口の中に入れると、食べずに残された麗の皿を横目に立ち上がる。
 まさかね、そう思いながらも、この時はいつもの麗の冗談だとばかり思っていた。