私、怯えてばかりで自分の世界に閉じこもっていたんだ。

話してみれば、舞花ちゃんやリュウくんみたいに理解をしてくれる人だっているのに気づけなかった。



「じゃあさ、すぐには難しくても俺相手になら好きなこと言えば?」

「ど、どうしてそんなこと言ってくれるの?」

「話させたの俺だし」


ちょっと怖い人だと思っていたけど、話してみると森井くんは優しい人だ。

放送委員にならなければ、きっとこんな風に話す機会は生まれなかった。


誰かに受けいれてもらえて、声を好きだと言ってもらえることが、嬉しくてくすぐったくて心が軽くなっていく。


泣きそうになるのを必死にこらえて、目の前の彼を焼き付けるように見つめる。



「行こ」


再び歩き出す森井くんの背中が遠くなっていく。


まだ話すのは緊張する。だけど、伝えなくちゃ。


早足で近づいて、引き止めるように声を発する。



「あ、」

「ん?」

私がなにかを言おうとしていることに気づいた森井くんは、振り向いて私の言葉を待ってくれているみたいだった。


少し震える唇にそっと呼吸と言葉を重ねる。



「ありがとう」

まだぎこちなくて、小さな声だけどそれでも森井くんには届いたみたいだ。


ほんの少しだけど目を細めて、口元を緩めた森井くんは微笑んでくれたように見える。




人と話すのは苦手だけど、ちゃんと聞いてくれる人がいる。


怖がってばかりの私の日常が少しだけ変わり始めた気がした。