「ジュールは私を恨んでいることでしょう。ですので、自分の身を囮にしても探し出せということだと解釈していますよ」

「……まあ。でも、それでよろしいのですか?」

「一度裏切り者となったのです。二度目も三度目も同じことでしょう」

 彼は、ディアヌに何を言おうとしているのだろう。

 ルディガーは、と言えば、戦の後始末に日々追われているようで、なかなかこちらに姿を見せることはない。彼との結婚生活が、二年で終わりを迎えることを考えれば、その方がありがたいが。

「それで、ディアヌ様にお聞きしたいのですが——ジュールが逃げるとすれば、どちらになるのかを。私は、マクシムには信頼されていたわけではないので、心当たりがないのです」

「そうですね……やはり、元の領地のあたりではないでしょうか。あのあたりでしたら、父の恩義を感じている者もいるでしょう。それに、ルディガーの——いえ、陛下の台頭を心よく思っていないでしょうし」

「それだけですか。他に心当たりはありませんか」

「他に、と言われても……あなたが、父に信頼されていなかったと言うように、私も異母兄には信頼されていなかったのです。目障りな存在だったのでしょうね」

 ディアヌの存在そのものが、ジュールからしたら許せないものだったのかもしれない。おとなしく修道院で朽ち果てればよかったのに、適齢期になったとたん戻ってきた。

「父は、私を誰かに嫁がせようとしていたようですが——相手が決まらなかったので。私が、陰気な顔つきをしているのがいけないのだと兄達に言われたこともありました」