診察を受け終えた者と入れ替わるようにして、部屋に入る。
「まだ呼んでおらんぞ」
 恵正は湯飲みに注がれた冷めた茶を飲み、干菓子をつまみながら、恵孝に目をやった。

「随分青白い顔をしている。何ぞ、臓物が悪いのではないかな。当家秘伝の妙薬を処方しよう、値はうんと張るが命には代えられぬ」
 からかう。
 恵孝は僅かに口元を緩ませたが、すぐに「青白い顔」に戻った。

「父さんの言った、万一の時が現になりました」
 懐から書状を取り出し、恵正に手渡した。

『姫は蛇殺し草に因る傷のため、命長らえても二年。それを未だ、陛下にはお伝えしていないが、いずれ耳に入るだろう。王はすんなりと聞き入れ、姫の宿命と諦めるだろうか。否。
 私の憶測だが、王は医者狩りをなさる。国中の医者を呼び集め、姫の治療をさせるだろう。出来なければ、命はないと脅し。』

 恵正は、もう一口、茶を飲んだ。