自分が、死にたくないと思っていたことに気づき、その動揺をノエルには見せまいとする。

「それと、城の倉庫に行きたいのですが——婚儀には、一応……その、花嫁衣装が必要でしょう」

「いちいち、俺の許可を取る必要はないんですよ。そもそも、ここはあなたが暮らしていた城だ」

「いえ、自分の立場を忘れたくないの。私に対するこの国の民の印象が最悪であることも、セヴラン王国の方によく思われていないこともわかっています」

「でも、それは姫様がこの国を救おうとしたからで」

 脇から口を挟もうとしたジゼルには、首を横に振って続きを拒んだ。

 それ以上は、口にしてはいけない。

「……それは、俺はどちらでもかまわないんですがね。まあ、せっかくですから、倉庫にご一緒しましょう。他に使えるものがあるかもしれないですからね」

 ノエルとジゼルを連れ、部屋を後にする。ジゼルは、自分の剣を返してもらえないことに不満があるようだった。

 一階の廊下を歩き、倉庫のある区域に到着しようとした時だった。

「この——裏切者が!」

 声と共に鋭い風が襲い掛かってきた。思わず身を固めたディアヌだったが、次の瞬間には金属が打ち合わされる鈍い音が響いた。

「な——いつの間に!」

 男の振り下ろした剣を受け止めたのは、ジゼルだった。ノエルの剣も抜かれてはいたが、ジゼルの方が早かったのだ。

 ジゼルは、ノエルの腰にあった短剣を一瞬のうちに奪い、そして男の剣を受け止めた。