「——はぁ」

 子供らしからぬため息をついた。



 出稼ぎに行ってしまう修道女達は、比較的若い年齢の者が多い。彼女達は、ディアヌに付き合って遊んでくれる体力を持ち合わせているけれど、残っている修道女の中には年かさの者も多くて、この何日かは退屈を持て余していた。

 たくさん勉強して強くなれ。それはクラーラ院長の教えでもあったけれど、今のディアヌにとっては、それが何を意味しているのかなんてわかるはずもなかった。

 小川にそって、斜面を登る。もうちょっと行ったら、岩場の間にすっぽりと隠れられるところがあるはずだ。

 そこでこのパンを食べて——それから、どうしようか。

 実際のところ、逃げ出すなんてできるはずがないのもわかっている。こうやって、自分が逃げ出しているのがわがままであることも。

「……あら?」

 見慣れないものが、斜面に転がっている。水辺に、何か汚い袋のようなものが転がっていた。

 足を速めて近づいたら、それが汚い袋ではなく汚れた人間であるのに気づく。

「……ねえ、あなた。ここで寝てて大丈夫?」

 生きているのか死んでいるのかわからなかったが、とりあえず軽く揺さぶってみた。

 そこに倒れていたのは一人の少年だった。あちこち傷を負っていて、ぐったりしている。服もぼろぼろだし、髪にも身体にも泥がついていた。

 ここは、修道院の敷地の中なのだが、どこから入ってきたというのだろう。ラマティーヌ修道院は旅をする者達に門を開いてはいるが、ここは門とは真逆の方向なのに。