姿が見えなくなるまで見届けたあと、悠さんは私の手をそっと握って穏やかに微笑む。

「夕飯の買い物をして帰ろう」

温かい手に包まれて、少し強張っていた体の力が抜けていく。

「先生、ごめんなさい。
先生は悪くないのに…謝らなきゃいけないのは私だったのに…」

「先生じゃないだろ」

直後、頬を引き寄せられ、唇が触れた。

私は唖然としてしばしフリーズ。

「先生っ、こんな人の多いところでっ」

心臓が可笑しいくらいに騒きだし、きっとゆでだこみたいに真っ赤になっている。

周りからの視線を痛いくらいに感じて、もうどうしていいかわからない。

「先生じゃないって言ってるだろ。ちゃんと呼ばないともう一回キスするぞ」

「ゆ、悠さん…」

悠さんは「よくできました」と大きな手を私の頭にのせた。

「殴られるくらいの覚悟はしてたんだけどな。
向こうにとってみれば理不尽な話だ。
俺が勝手に凛を奪ったんだから」

森田さんには申し訳ないことなのに、こんなときに甘い気持ちでいっぱいになる私はすごく不謹慎だと思う。

私、やっぱり悠さんのこと好きなんだ…

握った手のひらに意識がいってしまって、火照りはなかなかおさまらなかった。