仕事帰り、私は噂を聞きつけた同期の土屋美咲から呼び出しを食らっていた。

「…マジびっくりしたんですけど」

「…ごめん。いつ言おうか迷ってたんだけど」

アイスコーヒーのストローをチューっと吸いながら、じとっと私を見つめる美咲は、同じ病院の形成外科病棟の看護師をしている。

私は美咲の様子を気にしつつ、コーヒーを一口飲んだあとパンケーキにも手を伸ばす。

今日はお昼休みを潰して仕事をしていて昼食を食べる時間がなかったから、お腹が空いているのだ。

「女嫌いのイケメン先生と結婚ねえ。どうしたらそんなことになるのよ」

「まあ色々あって意気投合してね」

美咲はとてもサバサバしていて、言い方は悪いけどアバウトな性格だ。

受け入れが早いからあまり追及してこない。

いくら美咲が相手でも、契約結婚だなんて口が裂けても言えないけど。

「よくわからないけど、仕事一筋でイケメンに興味がなかったからこそ、女嫌いの先生の心を開いたわけね」

「そうなのかな」

曖昧に笑ってごますと、ふうん、と言いながら美咲もパンケーキを切り始める。

「まあ先生のファンがどう思うかってとこよね」

「どう思うかって?」

「女嫌いの風間先生は誰のものにもならないから、『みんなの風間先生』みたいな暗黙の了解があったじゃん。
あんた、先生のファン全員を敵に回したかもね」

恐ろしいことを言って笑いながら、美咲はパンケーキの大きな一欠片を口に押し込んだ。