あれか。廊下でちょっと話したことは筒抜けで、それでこれがここに用意されたと、そういうこと?

「うわぁ。なんだか怖いです」

「まぁ、窮屈に思うときも多いですが、慣れれば大したことではありませんよ。嫌になれば、外宮に出ればいいだけです」

こともなげに言いながら、ウォル殿下に勧められるままにソファーに座った。

「どうも酒しか用意されていないようですね。他のものを頼みましょうか」

「あ。いいえ。少しなら飲めますから大丈夫ですわ。お気になさらず……」

断りを入れている最中に、ウォル殿下がグラスに赤い液体を注ぐ。それを差し出されて、まじまじと彼を見た。

「あの……まさか、王弟殿下が手ずから入れてくださった飲み物なんて、いただけませんわ」

「それこそ気になさらなくて結構ですよ。私は確かに王弟ではありますが、近衛兵団の長でもあります。野営演習時は自分でも炊事をしますし、新米の兵が作った料理も食べます」

まぁ、確かに……あのわがままな父上も、遠征中は部下が持ってきたご飯食べているんだろうけど。

「……ありがとうございます」

グラスを受け取って、ふぅ……っと、溜め息をついた。

なんだかもう。いろんなことがありすぎて、わけがわかんない。

自らのグラスを満たして、目の前のソファーに座ったウォル殿下を視線で追っていたら、ふわりと微笑まれる。