「ねぇ、なおくん、1つ聞いていい?」


「いいよ」


「この前一緒にカフェいた女の人って誰?」


「職場の先輩。ばりばり仕事できて、尊敬してる人」



低いけど、穏やかな声でそう言われ、「へー」と不機嫌な声が出てしまう。


でも、すぐに同じようなトーンの声が返ってきた。



「あの時よねこも男といたじゃん。同じ部活だったやつ」


「ミシマのこと? 遅くまで2人で絵描いててたまたま一緒にいただけだよ」



そういえば、なおくん、昔ミシマに嫉妬してたことあったよな。


もしかしてわたしが浮気を疑われてる?


ミシマはただの仲間だよ、と思いつつ、1人そわそわしていたけど。



「……絵、楽しかった?」



なおくんはわたしの方を向いて、かすれた声でそう聞いてきた。


じっとわたしの目を見てくれていることが分かった。



「…………うん」



静かにうなずくと、なおくんはわたしの腕を引っ張り、ぎゅっと抱きしめてくれた。



大好きな人の温かい腕の中。


ふつふつと湧き出しては掻き消してきた想いが、自然と口から吐き出されていた。



「……楽しかった。もっと描きたいと思った」



なおくんと一緒に暮らす前まで。


わたしの夢はずっと、イラストレーターだった。



大好きな彼のお嫁さんになる夢を叶えたくて、投げ捨てた方の夢。