わたしとなおくんは違う家庭で育ってきた。


お互いにちょっとした習慣の違いがあるのは分かる。


物の置き方、靴や服の脱ぎ方とか、連絡のマメさとか。



何回言っても直らないことは、我慢しようと思っていた。


なおくんを癒せる存在になろう、いいお嫁さんとして頑張ろう、って決めたから。



なのに――



どうしてこの前、先輩とご飯食べてきた時、連絡してくれなかったの?


わたしよりも、女の先輩の方のつきあいを選んだってこと?



涙がでないよう、ぐしゃっとエプロンの裾を握りしめた時、


ガチャ、と鍵が開けられる音がした。



だめだ、笑え、わたし。


わたしは、なおくんの"お嫁さん"なんだ。



「おかえり!」



あふれだしそうな心に蓋をして、笑顔を作って彼を迎え入れた。



家族は今、日本にいないし、わたしの居場所はここ。



「ん。ただいま」



もう後戻りはできない。


今のわたしには、なおくんしかいない。