「殿下。お供いたします」

「ああ、久しぶりに身体を動かしたくなりましたか?」

ウォル殿下は彼にそう言うと、小さく私に笑いかけてから、前方を見る。

それが合図かのように、馬がゆっくりと歩きだした。

まわりの景色がまったりと流れていく。

外宮は、夏の盛りだと深緑の美しい木々に囲まれているけれど、今の時期は白い雪に覆われ、白と黒の世界に見えた。

常歩で歩く馬の背に乗りながら、近くにあるぬくもりを、あえて無視しようと試みる。


……でも、うまくいかなかったみたいだ。


「……馬は初めてではないでしょう? 落としませんから、リラックスしてください」

私の様子に気づいたのか、柔らかい口調が優しく響いて顔を上げると、やっぱり優しい笑顔で迎えてもらう。

それがまるで、落ち着いてと言われているような気がして、恥ずかしさに頬が熱くなってきた。


……なんだろ、これ。


すいっと視線を逸らして、白い樹木を見つめる。

「は、初めてではありませんが、なんだかドキドキします」

そう言うと、返事はなかった。

不思議に思ってウォル殿下を見上げると、めちゃめちゃ嬉しそうにしている。

「あ、あの?」

「ノーラ。抱きしめてもいいですか?」

「は……? だ、だき……ダ、ダメに決まっていますから!」

叫ぶと、お供の彼の方向から、吹き出すような音が聞こえた。