「あ、美味しいね。ありがとう」



コーヒーをすすった尾家さんは、目尻にしわを寄せながら微笑んでくれた。



「一応、カフェで働いてて。そこで買ったやつなんです」


「へぇ、バイトしてるの? 今年受験生でしょ?」


「なんか辞めれなくて。来年からの学費の足しになればと」


「どこに進学するか決めてるの?」


「とりあえず社会に出てから役立つとこにしようと思ってます。経済系とかITとか」



親父が見つめてくる中、和室のローテーブルで尾家さんと向き合う。



光沢のあるシンプルなスーツに、水色と青のななめストライプのネクタイ。


ワックスで整えられた短髪も清潔感があって、かっこいい。



サラリーマンのどこが偉いんだ? と昔は思っていたけど。


俺も社会人になったら、こんな風になれるのだろうか。



目の前の尾家さん、そして、親父みたいに。



「でも大学って遊んだもん勝ちって気もするし、そこまで気にしなくていいと思うよ。社会のこと知っておいて損はないと思うけどね」


「尾家さんはどの学部だったんですか?」


「俺は理工学部。エンジニア目指してたのになぜか営業やってるよ。そういえば、柳井さんは法学部だったかな」


「へー。法学部」


「しかもあの超有名大学。ホント頭いい人だったよ。……って、うわやべっ。そろそろ会社戻んなきゃ」



高そうな腕時計を見ながら、尾家さんは慌てて立ち上がった。



帰り際、「あの、またいろいろ相談してもいいですか?」と尾家さんに伝えると、


「もちろん。あ、そうだ。良一くんがお酒飲めるようになったら、柳井さんとよく行った居酒屋連れてってあげるよ」


と彼は言い、優しい笑顔を向けてくれた。