大量のショップバッグを抱えた愛理さんに連れられて私の部屋に入った。

「これからノエルちゃんは修一郎の個人秘書になるから、洋服やメイク用品、小物は私が買い揃えてきたの。だから安心してね。どこから見てもIHARAの専務の立派な個人秘書で婚約者に仕上げてあげるから」
愛理さんはガッツポーズをした。

その仕草のギャップと可愛らしさに思わず笑ってしまった。
「よろしくお願いします」

メイクと着替えが終わった。
「まずは美容院に行きましょう」
毎日ウィッグをしていたから、地毛は肩上で切られてあまり手入れしていない。これからは地毛をみせるのだからやはり美容院は必要だ。

カラコンとメガネとウィッグを外して外出するのは久しぶりでかなり緊張する。
美容院は愛理さん行きつけのお店で愛理さんが一緒に行ってくれるというから大丈夫かな。

リビングに戻ると修一郎さんはパソコンを開き書類に囲まれて佐々木さんと仕事をしているようだった。

「修一郎、ノエルちゃんを借りていくわよ」
愛理さんの声に修一郎さんと佐々木さんは顔を上げた。

修一郎さんが驚いたような表情に変わる。
「ノエル」
「あ、はい」

返事をしたのに、修一郎さんは憮然として愛理さんに話しかけた。
「姉さん、もっと地味な服は無かったの?」

え、このワンピースやっぱり私には似合わなかったのかな。
オフホワイトの花柄のワンピースに薄いパープルのカーディガン。愛理さんの選んでくれたワンピースが可愛くてウキウキしていたから、修一郎さんの言葉がショックで落ち込んでしまう。

「わっ!やだ。修一郎、あんたなんて事言うのよ!ノエルちゃんが勘違いしてるじゃない」
愛理さんが慌てて私の肩を抱いてくれる。

「いえ、やっぱりもう少し地味なものに…」
そう言うと、佐々木さんが笑い出した。

「違う、違う。ノエルちゃん。修一郎クンはノエルちゃんが可愛すぎて誰にも見せたくなくなったから、もっと地味にしろって言い出したんだよ」
お腹を抱えて笑っている。

そんなはずは…と修一郎さんを見ると佐々木さんを睨んでいた。少し顔が赤い。
…まさかね。

「じゃ、修一郎はほっといて、美容院に行きましょう、ノエルちゃん」
私をぐいぐいと引っ張って愛理さんは玄関に向かった。

「しゅ、修一郎さん。行ってきます」
かろうじて声をかけてリビングを出た。
玄関でこれまた愛理さんが用意してくれたパンプスを履いていると修一郎さんが出てきてくれた。

私をきゅとハグして耳元で「似合ってる」と囁いた。驚いていると更に私は軽く頬にキスされて「姉さんよろしく」と愛理さんと一緒に玄関から出されてしまった。

隣にいる愛理さんのため息で我に返った。

「修一郎の愛は結構重いかもね」
呟く愛理さんに私は
「愛はないですよ」
と苦笑した。