「襲うとかは、出来ないけれど……私も、愛してるって言い続けるよ。それなら、出来るし」


何だって、やってやろうと思ってしまうから。


不安も怖さも溶かしてくれる、この人の愛は。


「……本当、珍しいな。お前がそんなことを言うなんて。熱でもあるのか?」


「失礼な。反省したんだよ?……一応」


「反省って、家出か?誘拐か?それとも、離婚か?」


「…………全部(一応)」


ゆっくりと、私を侵してく。


恋なんて知らなかった。


人を愛すつもりなんて、なかった。


結婚するつもりだって、なかった。なのに。


「おい、一応って、なんだ!」


「うわーん!だって、一応なのは、一応だもん!それに誘拐されたのは、私じゃなくて柚香!」


私はこの人と契約したことで、囚われて。


手が、唇が、何もかもが、私に熱を刻み、覚えさせた。


「屁理屈か!」


「こっちの台詞だ!馬鹿!」


喧嘩して、泣いて、でも、また、笑いあって。


「…………良いな、これ」


少しずつ、お互いを知っていく。


「お前とは下らない喧嘩して、話をして、笑い合うのが一番かもしれん」


死ぬまで、お互いを知り合って……愛し合って、そのすえに。


「変かもしれないが、それが一番、俺は楽しい」


この人を愛したんだと、言いながら、想いながら、逝けるなら。


「……そうかも」


それが恐らく、真実の愛。


「こんな風に、一緒に過ごす時間を大切にしていこうな」


少しでも長く、彼の愛を受け止めて。


彼の愛に、侵されて。


彼を少しでも長く、知っていく。


そうすれば。


「はい」


死ぬときに、私たちの愛は――この愛は、“真実”となるだろうから。


「愛してる、沙耶」


「ん。私も……愛してる」


この人の重い愛を受け止め続ける永遠は、



始まったばかり。


                ―完―