ふと、自分を見ている私に気が付いて「何？デザートのおねだり？」と笑った。
修一郎さんを見ていたことに気づかれたが照れ臭くて
「はい。フルーツ買ってもいいですか？」とごまかしてしまう。

「ノエルが欲しいものは何でもいいよ」
と頭を撫でられた。

これはやっぱり完全にペットか子ども扱いされてる。
けど、まぁいいかと思える程私は修一郎さんに慣れ始めていた。
まだ、出会って数日なのに。

修一郎さんと食べる夕食は楽しかった。

ワインを飲みながら、私の作った料理を何でも「美味しいよ」と食べてくれる。

私は修一郎さんの笑顔と言葉と私をまるごと抱きしめてくれる強い心にほわわんとすっかり癒されてしまっている。
修一郎さんと本当に結婚する女性は幸せだなと思ってしまった。私は偽装の婚約者。いつかは終わるお付き合い。

しっかりと気持ちを引き締めて抑えていかないと別れの時が辛いし、修一郎さんにも迷惑をかけてしまう。
きちんと心の距離を置こうと決めた。

予定では来週末に私たちの婚約が発表される。

私が個人秘書として働くのはその後、再来週かららしいから今週はまだ出社しない。

「とりあえず、俺と一緒にいることに慣れてね。
あと、婚約発表の時に着るドレスを姉さんと決めてきて。他には何もしなくていいから。家のことも実家からお手伝いさんが来てくれるから心配いらない」

「修一郎さん。料理は私がしてはダメですか？修一郎さんは会食が多くて自宅でご飯を食べられないことはわかってます。でも食べられる日があれば夕食を一緒にしたいし、朝ごはんも一緒に食べたいです」

「それじゃノエルが大変じゃないの？俺はうれしいけど」

「本当ですか？私作りたいです。無理なときは言いますからやらせてください」

「頼むよ。でも、無理はしないこと。お手伝いの人を頼ること。信頼できる人だから安心して」
修一郎さんは私の頭を撫でた。

「はい！」

何かを頼まれるのはうれしいものだ。

「修一郎さんのことも私に教えてくださいね」

修一郎さんを見上げてニコッとすると修一郎さんも笑顔だった。
うん、何だかとても温かい。
ケイと一緒にいて感じるのとはまた少し違う胸がくすぐったくなるような温かさ。

「修一郎さん、ありがとうございます。私、がんばります」

安堂ノエルとして前向きに頑張れるような気がした。