「ケガしなかった? 危ないからもうこの恒例イベントやめにしない?」

 表情を確認しようとそっと麻里の前髪をかきあげたら、潤んだ瞳と目があった。
 柔らかい髪色、知らないメイク。やべ、女子力あげてきた! なんかちょっと大人っぽくなったかも。

 なんてその可愛さにうっかりみとれていたら、不意打ちのキス。

「……ちょ、慌てんな。いろいろ詰め込みすぎ!」

 照れ臭くてうろたえたのバレたかな?
 そんな焦りを誤魔化すように、俺の膝の上に馬乗りになっている麻里の顔を両手で包んでたしなめた。

「だって……」

 少し不貞腐れている。

「裕斗の手あったかい……」

 麻里はすぐ機嫌を直して、自分の頬に添えられた俺の手を握った。

『あたりまえだろ? 冷えないようにあっためてたんだから。おまえのために』

 とか言えねー。恥ずかしくって言えねー。

「てかなんか食べてんだろ? くちびる甘かったんだけど」

「……グミです」

「グミかよ!」

 ごっくん。と無理やり飲み込む音がする。

「やめて。マジやめて。てか反則!」

「えへへ」

 追い討ちをかけるような恥じらう笑顔。勘弁してください。

「あとさ、さっき投げたの靴だろ? ダメじゃんそーいうことしちゃ」

「だって走りにくかったんだもん」

「俺と会うときはスパイクでもはいとけ」

「ひどーい」

 泣きそうな顔を見る前に、ぎゅっと抱きしめた。

「嘘だよ冗談」

「うわーん、すき! 安定のツンデレすきー!」

「解説すんなよバカ」

 柔らかい頬が俺の頬に触れて。いや頬に食い込んで? いや、頬骨に刺さるように……。

「痛い痛い!」

「ごめんごめん!」
 
 一度引き剥がして立ち上がった。麻里の愛情表現は、力一杯でいつも笑ってしまう。