「安堂さん」
井原さんは前のめりになった。

「ノエルさんが実家に戻ってからもしつこく続いていたというストーカー問題は解決しているんですか?」

「いいえ、今はとりあえずストーカーに気が付かれずに生活してるって感じです。どんなに調べてみても、実家に現れたストーカーが何者なのかもわかっていないんです」
ケイは首を振った。

「そうですか」
井原さんは腕を組んで目を閉じた。

「これは、提案なのですが」
井原さんは目を開けるとちらっと私を見てすぐにケイに向き直った。

「ノエルさんを私に預けて貰えませんか?」

ん?
預けるって何?
私は首をかしげた。

「このまま逃げ回っていてもノエルさんの本当の日常生活は取り戻せない。ノエルさんは先に進めない。如月先生のような存在も気になる。ここは一気に勝負に出ませんか」
今までより低い声で身を乗り出すようにケイに話しかけている。

私は狼狽えた。
「あ、あの預けるとか勝負って何ですか?」

ケイは一瞬目を見開いて驚いたような表情をしたけれど、すぐに井原さんとしっかりと視線を合わせて頷いた。

「そうですね。俺も次の一手が必要だと思っていました。ずっとこのままってわけにはいきません。井原さんは俺たちに協力していただけると考えても?」

「ええ、私でよかったら是非とも」

私の前でケイと井原さんは握手をしている。
ちょ、ちょっと、どうして私は無視なの?どういうことなのよ。
私ひとりがおろおろとして視線を泳がせている。

「エル、ちょっとコーヒーでも淹れてきてよ」

おまけにケイにリビングから追い出されてしまった。何なの、これ。