ああ、鬱陶しい。話し掛けるんじゃなかった。

「じゃあ、どれも正解ってことでいいです」
私はデスクに置いた書類を手にして立ち上がった。

「おっと、待ってよ」
立ち去ろうとする私の左手首は如月先生に掴まれていた。
眉間にしわを寄せて軽く睨むようにして如月先生を見た。

「何か御用ですか?」

「いや、せっかく桐山さんに質問してもらったのにまだ返事をしていないからさ」

ああ、そういうこと。
「それで?いつですか?」
止まって如月先生の顔を見た。

「続きは今夜一緒に夕飯を食べてくれたら話すよ」
如月先生は私の手首を掴んだままにっこりと笑った。

そうきたか。

「友加里先輩、朋美先輩~、如月先生が今夜私達にごちそうしてくれるそうですよ~!」
私はメインテーブルのパソコンに向かって仕事をしていた友加里先輩に向かって大声を上げた。

友加里先輩はがばっと顔を上げ、奥にいた朋美先輩は転がるようにこちらに向かって飛び出してきた。
「えー!ホント?やったー」
「行きたい、行く!」

私は先輩2人ににっこりと頷いた。

「やってくれるね、桐山さん」

隣から如月先生のため息交じりの囁きが聞こえた。

振り返り笑顔で如月先生の顔を見つめて言った。

「だって、この病院の結婚したい相手ナンバーワンの如月先生と私が2人で出掛けたことがもしみんなにバレたら恐ろしくて。そんなことになったら私はここで働けなくなっちゃいますもの」

「そんな事これっぽっちも考えてないくせによく言うよ」

呆れたような口調だったけど、朋美先輩がこちらに来るのを見て私を掴んでいた手を離し、朋美先輩に笑顔を向けた。
「山本さんは何が食べたいですか?」

それが嘘くさい笑顔だと思ったのは私だけだろう。