「ごめんね。私もこんなつもりじゃなかったの」

ああっとため息がでた。

「ね、スカートもだめだわ。女性スタッフ用の制服のスカートを貸して」

洗面台でごしごしと手を洗っていると、クロックスサンダルと黒のタイトスカートを持ってケイが戻ってきた。

「タクシーを呼んでおいたから、着がえたらすぐに帰れよ」

「うん、助かる。こんな格好じゃ電車に乗れないし。迷惑かけてゴメンね」

「いや、もともと俺のせいのようなもんだから。俺がエルに忘れ物を届けてもらったからだろ」
ケイはゴメンと言う。

「じゃ、明日の朝ご飯はケイが作って」

ケイが背中を向けて私はスカートを履き替えた。
スカートもパンプスと同じビニール袋に入れて口を縛る。

「もうタクシーが来るから早く行け。ゴミはこっちで捨てておくから」

ケイに送り出されてタクシーに乗った。



流れる街並みを見てため息をついた。
はぁ、疲れた。

あの人大丈夫だったかな。
多分脳出血だろう。
言語障害やマヒが残らないといいな。

私の嫌いな集団の1人だけどあの人自身には何も恨みはない。
ただ、お金持ちがセレブオーラを出して我が物顔で騒いでいるのを見るのが嫌いで近付きたくないだけ。
ただの私の勝手な言い分。

家柄や収入でその人自身の価値まで決められてしまっているかのようなお付き合い。
あの香水や整髪料の混ざったような香りの強い人が多いのも苦手だ。自意識が高いと纏う香りも強くなるような気がするのは私だけだろうか。

もう一度大きくため息をついて目を閉じた。

明日は朝から勤務だ。もう切り替えなくっちゃ。