ただの「お金持ち」じゃ住めない、桁違いのマンション。

そんな話をしていたら、夕帆先輩と話し込んでいたはずのいつみ先輩が「南々瀬」とわたしを呼ぶ。



「今日のこと、お前の親に連絡する。

何もなかったにせよ、あれだけ言っておいて危機管理が甘かった俺らに責任があるしな」



ああそれなら、と。

口を開こうとしたタイミングで、部屋に入ってくるのは理事長秘書である彼女。わたしが転校してきたときに、教室まで案内してくれた人だ。



「やーん、姫ちゃーんっ」



「わ、いくみさん、」



ぎゅうっと抱きしめられると、ふわりと甘い香りが漂う。

女の子らしい、という言葉よりも色気の混じる、女性らしいという言葉がぴったりの彼女にされるがまま抱きしめられていたら、いつみ先輩が「おい」と低い声をこちらにかけてくる。



離れようとしたけど、どこにそんな力があるの?って思うほど細い腕にしっかり抱きとめられて、動けなかった。

……いつみ先輩、表情が怖いです。




「南々瀬はお前のじゃねえだろ」



そう言っていくみさんがぺりっと引き剥がされたかと思うと、わたしの腕を引くいつみ先輩。

なぜか彼に後ろから抱きしめられるような形になって、ぱちぱちと瞬きした。



「俺のもんだから、余計なことすんな」



俺の……?

わたしはいつみ先輩のものじゃないん、ですけど……?



「やだ夕帆、いつみがお姉ちゃんに反抗期」



「……かなり昔から反抗期よ、いつみは」



そういえばいくみさんって、いつみ先輩のお姉さんなんだっけ……

はじめて名前を聞いたときはいつみ先輩のことを知らなかったけど、彼女は「珠王いくみです」と名乗っていたし。