スピーカーから元にもどして電話を耳に当てたまま、いつみが部屋を出て行く。

車出す、というよりあれは、自分も迎えに行く気だな。



「……、よく納得してくれたわね」



「そうだねえ。

……カード盗むような手に出たくせに、話し合いで納得してくれるとか、ちょっと笑えるな」



「でも拉致してんじゃねーか」



攫われたって言ってたしな。

話し合いで済むなら別に、いちいち拉致するようなこともなかったんじゃねーかと思うけど。とりあえず無事ならそれでいい。



「ひとまず、気も抜けたってことで。

俺は買い出し行ってくるかな〜。昼飯何がいーよ?」



くっと、伸びをした椛が立ち上がる。

「買い出し付き合うぞ」と言えば、なぜか意味深に笑われたけど。




「んじゃ、行こうぜ莉央ちゃん」



「その呼び方やめろ」



「えー、どうしよっかな〜」



さっきまで死んでたくせに、すっかりいつも通りの椛だ。

めんどくせえなこいつ。毎日ああやって静かにしてればいいのに。……ああでも、それはそれでうざいか。



「結局うざいんだな、お前」



「ストレートすぎて泣けるわ。

……なんだかんだ言って莉央ちゃん俺のこと嫌いじゃないくせに〜。ツンデレ〜」



絡んでくる椛を「うるせえし、うぜえし、めんどくせえ」と引き剥がしながら。

でもまあこれも悪くねえか、と。そう思ったのは、俺の心の中だけの秘密だ。