城が、見える。

突如現れるのは、不思議な学校。──それらを纏め上げるのは、唯一無二で絶対的な王様。



「……その考え方、俺は嫌いだけどな」



「あら、そう?

人の感情は、案外いろんなものをあきらめられるように出来てるのよ。社会で生きていくために」



「社会とか世間体とか、そんなもん気にしてられるかよ。

自分の感情を知ってんのは自分しかいねーのに、それを自由にしてやんねえでどうすんだ」



くすり、と。小さく笑みが漏れる。

本当にこの人はとても素直で優しくて。それを微笑ましいと思ったはずなのに、漏れた笑みがどうしてか自嘲的に聞こえた。



「あなたの考え方は、わたしも好きよ」



やっぱり、綺麗だ。

青空に映える、その臙脂が。──彼にとっても、似合っているから。




「……莉央」



風に掻き消されそうなほど小さな声で、彼の名前をつぶやいてみる。

彼がカードを、セキュリティシステムに翳した。何度見たって、経費を使い間違えているとしか思えない金の箔押し。



ピッという電子音の後に、鍵の開く音。

片手で黒い扉を押した彼が、振り返ってわたしを見る。なんだか悪戯っぽい表情で彼が振り返るから、どうしたのかと思いつつC棟に足を踏み入れれば。



かすかに表情の見えづらくなる、薄暗い廊下で。

彼がふっと、楽しそうに口角を上げた。



「呼ぶなら、ちゃんと聞こえるように呼べよ」



「え、」



「じゃねーと、返事できないだろ? 南々瀬」