「いくみさん、

ほんとにいつみ先輩のこと好きですよね」



「んー? ルノもぎゅーってしてほしい?」



「いえ、結構です」



あと10秒宣言をした割に、それより長く彼にひっついていた彼女は。

満足したのかいつみ先輩から離れて、俺の返事なんて気にしていないように「残念」と笑う。それから入部届を受け取って、ひらりと手を振った。



「理事長がこれを受理したら、

あとで生徒会のバッジ持ってくるから」



いつみ先輩のブレザーの襟には、金色の王冠を模したバッジ。

彼以外の面々のブレザーの襟には、同じものの色違い、銀色のバッジが付いている。



それが生徒会メンバーである証明になるから。

それがあればこの学校や、ここと提携している企業に対して色々と有利だ。例えば、提携してる企業にアポなしで出向いても通してもらえたりする。




無くても困らないけど、あれば助かるものだ。

……とはいっても、入学して3ヶ月の俺は使ったことはないけど。



「持ってこなくていい夕帆が取りに行く」



「えー、いつも夕帆が来るじゃない。

いつみもしかしてお姉ちゃんのこと嫌いなの?」



「ようやく気付いたのか。その通りだ」



「冗談やめてよ、

いつみ、お姉ちゃんのこと大好きじゃない」



「……優秀な精神科医紹介してやるよ」



本気のトーンで冗談を交わすふたり。

彼女、珠王いくみさんは、本当はすごく仕事のできる優秀な理事長秘書だ。……先輩の前では、いい女が台無しだけど。