「‥まぁ、できるものならね。私は腰抜けな人とは付き合わないから。じゃあね。」


私は壁ドンをやめ、来た道を帰ろうとした。


「絶対に英莉紗さんを振り向かせてみせますよ。」



振り向くとやる気満々に満ちた顔があった。


「‥あっそ。せいぜい頑張ってね。」


そう言い私は歩き始めた。







その後、私は同僚の朝倉若菜とお昼を食べていた。


「ねぇねぇ、英莉紗。営業部の佐渡翼先輩に告られたんでしょう?やっぱ、英莉紗のことだから断ったんだよね?」


さすがは情報が早い。


私はサンドイッチを食べながら言う。


「断ろうと思ったら、向こうの方が一枚上手だった。普通さ‥あれだけ、言ったら戦意喪失してそのまま下がるでしょう。それなのに、あの男は‥。」


グシャ



私は手に持っていた袋を潰した。



「まぁ、英莉紗の男嫌いは今に始まったことじゃないしね。それを知った上で告るなんてすごいよね佐渡翼先輩。」


「あんなやつ全然、すごくなんかないわよ。あんなの迷惑極まりないわ。」


思い出しても腹がたってくる。


「でもさ、英莉紗も今年26でしょう?結婚とかどうするの?」


「安心して。私、生涯結婚する気なんてないから。」


私は笑顔で親指を立てる。


「英莉紗は一人でも寂しくないの?」


「全然。男なんていなくても一人で生きていけるよ。それに、もう好きになるのはこりごりだよ。」



そう‥あれは高校1年の時のこと‥。



「やっぱ、英莉紗を合コンには連れていけないね。ぶち壊しそう‥。」


「うん!私、ぶち壊すの得意だから!」


でも‥誰かの幸せを壊したいとは思わない。


誰かを羨んだり、嫉妬したりなんかもしない。


本当に私はあのことをまだ引きずってるんだ。


「私から言うのもあれだけど佐渡先輩はイケメンだし、いい人だと思うよ。1回、試しにデートでも行ってきたら?」



「絶対に嫌だ。私は若菜達と遊んでる方が楽しいかな!ねぇ、次はどこに行く?」


これ以上は恋愛の話なんかしたくない。


私は逃げることにした。










私、須永英莉紗(すなが えりさ)(25)は栃木県出身だが、大学からずっと東京にいる。


もちろん、一人暮らしである。


嫌いな人は男。仕事は普通にできるけど、告白とか言い寄ってくる人は嫌いである。


私には女友達だけで十分なのだ。十分間に合ってる。