「……っ」
どうにかして名前を呼ぼうとするのに、郁也の舌と唇がそれを許してくれない。
抑えられた手首と、絡まった私と郁也の足。熱くて、気持ちよくて、全部、ぜんぶ、溶けていっちゃうんじゃないかって思うくらい。
……ねえ、どうして?
好きじゃないのに。
ただの賭けなのに。
ゲームなのに。
私は郁也のキス、本当に拒めない?
郁也はどうして、私にキスするの?
「っ……も、……い、っ、郁也っ!」
どんっ、と。手首が自由になった瞬間、これ以上ないくらいの力で郁也の胸板を押した。
イキナリ出した大声に、郁也がダルそうに起き上がる。
その姿を見て、その目を見て。
何故か涙が出てきた。
だって、郁也がこんな事するのは、慣れてるからで。女の子になら誰にだってするわけで。
郁也は誰だっていいんだ。
たまたま入学初日に出会ったのが私だっただけで、暇潰しになればきっと誰だってよかった。私なんかじゃなくったって。
「最低っ………」
涙をグイッと拭いて、そのまま走り出す。郁也が「おいっ」って言いながら私に手を伸ばしたけど、今度は捕まらなかった。