「今度は何だ」

何度も引き留めるリルに苛立ったように、彼の言葉が鋭くなる。


「ずっと聞きたかったことがあって」

「何だ」

「あなたの名前は?」


あの日助けられてから、リルはずっと聞きたいと思っていた。けれどその機会がなかった。

彼は驚いたように目を見開いて、それからふっと笑って答えた。


「シオン」


シオン、それは花の名だとリルはすぐに気づいた。

紫色の凛とした花。

それは彼の透き通るような金の髪と鋭いラベンダー色の瞳にこそ似合う名前だと思った。


「花の名前なんだね」

「それはお前もだろう」


シオンはリルに近づくとその髪を少し手に取った。


「リル・エトメリア」


この男が自分の名前を憶えていてくれているなど、リルは思いもしなかった。

だからこそ自分の名前を呼ばれて驚き、どう答えたら良いか分からなくなってしまった。


「しっかりな」


そしてシオンは微笑んでその場を後にした。リルはその姿を見えなくなるまで見送っていた。

彼はあんなにも優しく笑うのかと、発見にも似た驚きがリルをいっぱいにした。