シンとした廊下。
ふたり分の足音だけが、静かな空間に反響する。
「いつみがあんなに話してるの、ひさびさに見たわ」
「……え? そうなんですか?」
「ええ。あたしといつみ、幼なじみなんだけどね?
今日はちょっと楽しんでたみたいだし……参ったわね」
「……? 参った……?」
楽しんでたなら、よかったんじゃないだろうか。
何に対して楽しんでたのかは、あんまり聞こうと思わないけど。……だってロクな答えが返ってこないような気がするし。
なんて少々失礼なことを思っていたら、隣の先輩が足を止める。
それにつられて足を止め、彼女を見上げれば「南々瀬ちゃん」と真剣な声で名前を呼ばれた。
「ああなった時のいつみは、止まらないから。
……きっとなんとしてでも、いつみは南々瀬ちゃんをそばに置こうとすると思うわ」
「……、」
「悪いけど、あの状態じゃあたしたちも手の施しようがないの。
何をするにも、結局は"王様"がすべてだから」
ごめんね。
そう謝った彼女は、何もなかったかのように足を進め、わたしを校門まで送り届けてくれた。
てっきりC棟の入口までだと思っていたのに、そうじゃなかったらしい。
わたしを送り届け、踵を返してもどっていく彼女の背中を見つめる。
「ロイヤル部……ね」
ひとまず、帰って両親に話を聞かなくては。
……忙しいから、耳寄りな情報は聞き出せないかもしれないけれど。