「……、数日考えさせてもらっても、いいですか」



「ああ。好きにすればいい」



1ヶ月は仮入部扱いにしておく、と告げる彼。

けれど今は6月下旬で、1ヶ月後はちょうど夏休みの最中。それまでに答えを出せ、ということだろう。入部届は、入るなら書きに来ると女王先輩に返した。



「南々瀬ちゃん、寮には入らないの?」



「……はい。家、近いので」



「そう」



ふわり。微笑んだ女王先輩が、「外まで送るわ」と席を立つ。

一瞬断ろうとしたけれど、入口からここまでの道筋をはっきりと覚えていなかったため、それに甘えることにした。




「え、と……

それじゃあ、失礼しました」



ぺこり。

頭を下げて部屋を出ようとすれば、騎士椛は甘い笑みのままひらりと手を振ってくれた。そして。



「南々瀬」



「……、はい」



「……気をつけて帰れよ」



感情の読めない、珠王先輩の声。

「ありがとうございます」とそれに形だけの言葉を返して、女王先輩と部屋を出た。



部屋を出れば、まるで夢が醒めるみたいに。

ほかの校舎と同じ廊下が広がっていて、もしかして一連の流れは夢だったんじゃないかと、馬鹿げたことを本気で考える。……そんなこと、あるわけないのに。