「おーい琉生!」
「はい、何すか!」
「こいつに正しいフォームってやつを教えてやってくれ。どうしても軸がぶれちまうんだよ。」
「あぁ、なるほど。それはこうやって…」

その日の朝練はさっき言ったみたいに特に変わった事なんて無かったさ。
いつもみたいに全員で走ってんで普通に休憩取って喋って挨拶して別れて、全部前日の朝練と一緒さ。

まぁ、俺は案外周りに興味無いって所もとかもあるし俺がただ単に気付いてなかっただけかもな、何かが変わるっていう予兆ってやつに…。



その日の午後練、俺は日直だったから日誌を書いてから教室を出たからいつもよりも遅くなっていた。
いつもだったらもう1人の子に頼むんだが生憎その子は用事があるからって先に帰っていたんだ。そのせいでいつも一番に更衣室にいる俺はまだ更衣室に行けていなかったんだ。


だからかもな。俺は今日部活に来ないって思って油断してたんだろ。



「やべー。このままだと部活遅れちまうかもな…急がねーと。」
「……だって…!」
「お。まだいるっぽいな。なら意外と余裕だったのか。」

そう思って扉に近づくと話していたのは俺と一緒にリレーを走っている奴らだった。

そのままドアノブに手をかけ、扉を開こうとした。だが耳に飛び込んできた言葉に俺は思わず凍りついた。


「てかさー、マジでうざくね?八神。」
「あー、分かるわ。何なのめっちゃあの上から目線的な感じ?」
「だよなー。俺はこんなの余裕だしみたいなマジで腹立つわ。」

扉の向こう側から聞こえてきたのはチームメイトのなじりの言葉だった。

「嘘、だろ…?」

最初は理解できなかった。
いや、したくなかったの間違いだな。
今までずっとやってきて、信頼できるチームメイトだって俺の方はそう思ってたんだ。
そばにいたはずなのに全く気付かなかった。


「てゆーか、また勝ったとしてもあいつばっか褒められるんだろ?だったらさ、」

手ぇ抜いて、あいつが負ける所見たくね?

「おっ、いーねそれ!」
「よし、俺もそれ乗った!んでそれ次の大会でっ…」

ガン!!

気付いた時には俺はもう既に扉を蹴破った後だった。

「や、八神…。」
「ち、違うんだよ、これは…」
「あ?何が違うんだよ。手ぇ抜くって事か。それとも俺が腹立つって事か。」
「それは…。」
「違わねーよなぁ、全部本当の事だしよ。」

そう言って遠回しに全部聞いていたという事を教えてやればあいつらの顔はどんどん真っ青になっていった。

けど、俺はあいつらには全然同情するつもりなんかなかった。

「たがらお前らは俺に勝てねーんだよ。陸上でわざと手抜く奴らなんかに俺が負けるとでも思ってんのかよ。」

そう言って睨みつければあいつらは震えて俺から顔を逸らした。

「愚問だな。さっさと消えろ。」

首で扉の方を指せば、あいつらは我先にと扉の方に急いで走っていった。