『ルキ』の呼び名に込められた意味は光。

少年の失われた記憶が、光り輝くような明るい記憶であるように。



それともうひとつ。

もし少年が何か深い闇を抱えているとしたのなら、眩い光で闇を払えるように。

という私なりの願いをこめて。



「ねっ?いいでしょっ、ルキ?」



少年は首を縦に振ることはなく、表情を歪めたまま視線が逸らされた。

その眉間には相変わらず、深いシワが刻まれたまま。



「やっぱり違和感があるなぁ…。誰かに優しくされるのは」

「だってルキは私の命の恩人だもん。だから私はルキを助けたいの。ルキが助けてくれなかったら、私は間違いなく魔獣に噛み殺されていたからね。あなたのおかげで私は生きているんだもの、本当にありがとう」



少年あらためルキは、目を大きく見開いた。

かと思えば真一文字に結ばれていた口の両端が、ほんの少しだけあがったような気がした。



「ありがとう、なんか初めて言われたような気がする」

「ルキ、これからよろしくね!私の名前はメイベル・パルディウスっていうの。だから気軽にメイベルって呼んでね」



ルキは私を真っ直ぐに見つめながら、口元にはっきりと笑みを含ませ、深く頷いてくれた。



ただ笑いかけられただけなのに、何故だかすごく嬉しくて、私もまた満面の笑みをむける。



そして私はルキの手首を掴んだまま、光溢れる森の外へ飛びだした。

木々に囲まれる中にそびえる、フォルスティア学園へむかって。

休むことなく、ひたすらに走った。