「こんなの、打てて当然だ!」



俺はカーブを打ちに打ちまくった。金欠なだけに、弟にお金を取られては泣くに泣けないから。




そして、料金分のバッティングが終わった。


気がつくと俺の額からは汗が流れていた。



「はい。今度は自分で打ってみろ。」


「よーし。なんとなく分かった。」


そう言うと史人は自信を持って打席に入っていった。



俺はベンチに腰をかける。




史人のフォームを見てると中学の俺を思い出す。



(お前、野球好きなのか?)


笑顔で話しかける一成の顔を思い出した。


そうだった。転校してきたばっかで友達も作れなかった俺に野球部を紹介してくれたんだった。



最初は嫌で仕方なかったけど、だんだん楽しくなってきたんだ。


それは‥きっと一成がいたから‥。



俺がふと思い出から現実に戻りあたりを見渡すと見覚えのある姿を見つけた。



今まさに打席から出てくるところで‥



向こうと俺の目が会う。


「一成‥。」


そう、それは成蘭高校野球主将の一成だった。









俺は弟から少し離れた休憩スペースで一成と話していた。


「意外だな。絢人とこんなところで会うなんて。」


一成が飲み物を飲みながら言う。


「ううん。今日はたまたまだよ。弟についてきただけだし。一成は?いつもここで練習してるの?」



「まぁ、だいたい。バッティングしてるとさ小遣いがすぐになくなるんだよな。1週間前に小遣いもらったのに、あと500円しかない。」


「それは、分かるわ。バッティングやってるとお金だけでなく時間もたつのが早いんだよな。」


「おぉ!絢人、俺の気持ち分かってくれるか!!」


俺と一成は2人で笑う。こんなに2人で笑うのは久しぶりだ。


俺は気になっていたことを一成に聞いた。



「一成‥部活‥つらくない?」


「急にどうした?」


一成も真顔になる。



「部活の時の一成、辛そうだから。」




「絢人。お前は野球、好きか?」


一成は答えずに話をかえた。


「‥好きだよ。何、当たり前のこと聞いてんの?好きだから高校でも続けてるんだよ。」


「そっか‥。絢人が好きならそれでいい。」


「一成は?一成も好きなんでしょう?」



「俺は‥俺も好きだ!」



明らかに嘘ついているように見えた。



「嘘、ばっかり。本当は?」


「なんで、いつも絢人には俺の嘘がばれるんだろう。」


「顔がひきつってるから。一成は自分の心に嘘をついてる。」


そう言うと一成は深い息を吐いた。


「本当に敵わないな。うん。俺は野球をするのが辛いて思ってる。」


とうとう、一成は白状した。



「主将になってからはすごくしんどい。みんなから悪口言われてるのも知ってる。いい感じには思われてないて。」



「知ってたの?」


意外な真実だった。


「俺が知らないとでも?だいたい、メンバーのことは把握してる。だてに主将をやってるわけじゃないし。でも、俺はそれでもいいと思ってる。言いたいやつには言わせておけばいい。俺は勝ちたいんだ。」




俺は一成から伝わる強い何かを感じる。



「チームが強くなるためなら、俺はどんな嫌われ役にもなる。先輩と約束したんだ。絶対に甲子園に行くって。そのためにどれだけ自分を犠牲にしてもいい。それぐらい俺は勝ちたいて思ってる。負けて悔し涙は流したくない。」