「さあ。よく分からないけど、愛しちゃいけない相手だったとか?」
彼女は肩をすくめて微笑むと、桜の木を見上げた。
ミルクティー色のその瞳に、咲きかけのつぼみはどう映っているんだろう。
両親の思い出の場所をたずねた子供の顔が、こんなに寂しげであっていいはずがない、
と僕は思う。
「あ、靴ヒモほどけてるよ」
桜子が僕の足元を見て言った。
「式の日でさえも拓人はスニーカーだもんねえ」
そんな桜子の言葉に、僕は苦笑する。
ほどけたスニーカーの靴ヒモを結びながら、
ふと僕は、不思議な運命のようなものを感じた。
父親がいなかった桜子。
育ての親となって愛情を注いだ、僕の父。
そして父が逝ってしまったあと、
僕はまるでバトンを受けとったように、桜子を見守っている。
そうすることで不思議と僕は、父を身近に感じるようになりつつあった。
桜子を通して、僕と父さんは初めて家族になれたのかもしれない。
.