「やったっ!ついたー!」
私は机にうつ伏せになり、冷たく気持ちが良い机に頬ずりをする。しかし、目の前はなぜか急にくらくなる。すると顔に向かって下敷きが迫ってきた。私は避けきれずにあたる。
「おっはよー!元気だせー!」
私はうつ伏せた顔をあげて彼女をみる。
「冬ちゃんひどい…。疲れてるのにー」
彼女の名前は野川冬。少しサバサバしているが彼女の外見は可愛らしく男子から密かな人気がある。(…私の周りの人達が妙にハイスペックで目の保養になる日々を過ごしている。はたから見たら私はかなり浮いているだろう。)そんなモテる彼女は校外に素敵な彼氏がいる。彼女曰く、『やっぱ今は塩辛系男子!あの細長い眼がいいのよ!二重よりも一重の方がいいわ!身長も高くて!ここに筋肉があったらたまんない!そして…』という理想像がある。細かすぎてきりがなく忘れてしまったが。結論で言えば学校の人は論外らしい。かなりハイスペック彼氏だったのは覚えてる。

ーやっぱり。男の人は皆そうなのかな。

私はそう思いため息をついた。
「どうしたの?浮かない顔して」
「冬…。あのね。」
私は静かに単語帳をだした。
「これ、学校に忘れちゃってたの。(実際いつも学校においてあるが)今日引っかかったら居残り補習じゃない?冬はやった?」
「えっ…っと!あ、用事あるわー!じゃっ!」
そういうと冬は急いで席に着き単語を見つめる。

私はそんな彼女を見て笑う。私にしてはいい友達を持ったものだとしみじみ思った。
私はいつもぼうっとしていて友達が滅多にいなかった。その原因の一つが昔から不思議なところがあるせいだろう。小さい頃は言葉にし難い何かが見えた。夢も大体現実と似たようなことが起こる。悲しいことがあった日は大体雨が降った。何かに取り憑かれてるのではとも思った。そして最も不思議なことは夢だった。

ー確かあれは中学生の頃…。

誕生日が近づいてきて、私は誕生日プレゼントで悩んでいた。その日は月が綺麗で美しく幻想的だった。どこか懐かしさを覚えた私はその光に包まれる心地で眠りについた。

私は知らない何処かで座って何かを覗いていた。目の前は植物がありその隙間から巫女のような女性と茶色い服を着た男性が見えた。
「………ー?」
「ーーー!///」
男性は笑い、女性は持っていた箒で何やら照れた顔を隠そうとしていた。
ーいいかんじよ!ーっ!
何故か私は…今では思い代せないのだが夢の中の人を応援していた。すると、急に目の前が暗くなる。その瞬間何かが私の頭を叩いた。
ーいたっ!
私は振り向き言葉を発しようとするも言葉が出ない。そこには男がいた。彼に私が何やら抗議したのだろう。言葉をつらつらと述べた感じがした後、彼は歩いていく。私は立ち上がり彼を追いかけるも身体が重くなかなか追いつけない。
ーちょっと待ってよ!
私は心の中で叫んだ。それが届いたのか彼は私に振り返り笑う。その瞬間私は今まで感じたことのない愛しさだろうか。それがわき起こった。

ーって。言ってもそんな話端から思えば厨二病ね。痛いはなしだわ。

それでも私はその気持ちに引きずられ、彼が葵のような印象だったことから蒼。水たまりで見た私?だろうか。黒い髪と赤い唇から白雪姫をもじり、雪。太陽のような巫女を茜。その相手を圭と名付けるほどその夢を見ることを好んでいた。

ーーキーンコーンカーンコーン
「皆席について。転校生を紹介するわ。ではよろしく。」
「誰だろうね。」
前の席に朔が座っていた。
「朔いつのまに教室にいたの?」
「光が単語帳を野川さんに見せたところから」
「へー。」
…気がつかなかった。気配消しすぎ。私はそう思いながら前に向き直った。
ーんっ?
その青年はお辞儀をした。
「初めまして。東京の高校からきました。司馬Kといいます。」
私は口をぽかんと開けた。朝あった…青年だった。私は彼を一学年下…というかとにかく私のクラスには来ないと思っていたからだ。

「質問!もしかしてハーフ?なんで名前がKなの?」
「いいえ。イギリス人の祖母と日本人の祖父で僕の両親はどちらとも日本人です。」
教室では歓声の声が上がる。そっか。クォーター?なのか。私は妙に納得し、彼を見つめる。
「じ、じゃあ!次俺!なんでKなの?」
ーそれは私も知りたい。とてもきになる。
「はい。えっと。僕の祖母が真名…つまりは言葉には力があると考える人で、その人が決めた決まりで特別な人にだけその名前をいうように。と、言われてます。日常的にもこまると思うのでKに漢字を当ててもらって構いません。圭とか京とか。」
そういう考えの人いるんだ。しかも外国人って…。魔女かな?それともキリシタンでそういうのが?面白いな…。私は彼に好奇心を抱いた。
「席は…えっと。窓側の席。あそこにいるほにゃ!ってしてるこの隣ね」
「ほにゃっ……って、ちょっと!?ほにゃってしてるのってひどくないですか!?」
ー初対面じゃないけど彼からあまりいい印象を受けてない!最悪!!
「ぷっ!あはは!」
彼が笑う顔を見て私は顔が赤くなるのを感じた。彼は席に近づいてくる。

「これからよろしくね。伊澤さん。」
「うん。よろしくね」
私は顔を隠しながら朔の服を掴む。
「ほにゃは事実だよ。光は抜けてるから。初めまして。僕は白石朔。この子の幼なじみだよ。よろしくね。」
朔はにこやかに笑う。
「よろしくね。朔!」
私達は和やかな空気で会話をしていると。
「はい!じゃあ、テストするわよ!」
「「「えっ!!」」」
「何よー。予告してたんだから。あ、司馬君はテストうける形になるけど今回は突然だし補習はなしだから。安心して受けてちょうだいね!」
みんなの抗議をよそに先生はさっさと配っていく。
ー忘れてた!夢のこととかに気をとられすぎてた!

私はプリントにかぶりつくようにシャーペンを掴み書き込んでいく。司馬君はシャーペンを走らせているのがよくわかった。
あと、一問わかれば…!合格点に届く…!けど、わかんない!!
私は選択問題で悩み始めた。
すると誰かの視線を感じた。司馬君のものだった。彼は何かジェスチャーをしてきた。
ーーー二十五問目の答えcーーー

私はそれを読み取り恐る恐るそう書いた。
「ーーはい!前後でプリント交換して!」
先生はそういうと黒板に正解を書いていく。私は朔と交換した。
私は一問から二十四問目までにすでに二、三問間違っていた。この後に控えてる問題を考えるとあと間違えていいのは残り三問!私は祈るように答えを見つめた。


c


その字を見て私は驚く。朔の答えは間違っていた。
ーまさか、朔が間違えるなんてー
私は驚いた心地で答え合わせを続ける。朔は答え合わせが終わり私と交換をする。朔は一問間違い。私は四問ぎりぎりセーフだった。
「朔が問題間違えるの珍しいね。」
「まさかこんな熟語が出てくるとは思わなかったんだ。よく解けたね。」
「あ、それは…。」
私は朔に教えてもらったことを言おうとすると。
「お前すげーな!満点じゃん!?」
左斜め前からの声に驚いてそちらをみる。どうやら司馬君が満点をとったらしい。
「範囲もわからないのに…。彼は凄いね。」
私と朔は唖然としながら彼を見つめた。