「なぁ、なんの本読んでんだ?」

「…………」

無視だ、無視。
こういう輩は、反応すると調子に乗る。

わざわざ私の机の前にしゃがみこんで、勝手に両肘をつく夏樹君。

なるべく視界に入れないよう、読みかけの本を少し持ち上げて顔を隠した。

よし、これで顔が見えなくなった。
安心して読書でき……。

「あー、『薄紅色の初恋』?」

「うっ……」

つい、恥ずかしさに唸ってしまった。

やめてっ、恥ずかしいから題名言わないで!

カバーをかけていたのに、本を持ち上げた拍子にずれて、タイトルが見えてしまっていたのだ。

こういう本を読んでるキャラなんだって、思われたくないのにっ。

常に、近寄りがたい雰囲気を纏うようにしてきた。

それは、話しかけられたり、話せないことでバカにされたりしないよう、自分を守るための手段、いわば鎧だ。

少しでも怖い、強い人だと思われる必要があるというのに、恋愛小説なんて読んでいると知られたら、そのイメージが崩れてしまう。

というか……どうして私に付きまとうんだろう、この人。

気に入られるようなことは何もしていないのに、初対面からこの勢いで話かけてきている。