雨か、涙かは分からない。


離れた瞬間、アリサの目から水滴がこぼれているのが分かった。



「……なんで、お前が泣いてんだよ」


「だって、あたしも知ってる人が亡くなったんだよ。……悲しいよ」


「…………」


「だから、良ちゃんが悲しくないわけな……」



俺も、その言葉をふさぐように、アリサを抱きしめていた。



手が、腕が、震えていた。


彼女の濡れた髪をぐちゃぐちゃと撫でて、力を調節した。



さっきまで頭がおかしくなるくらい、親父とのことを考えていたはずなのに。


今は、頭の中が真っ白になっていた。


何も考えられなかった。



アリサも俺の背中に手を回し、強く抱きしめ返してきた。



「……っ」



衝動というものだろうか。


余計な思考はすべて消え去っていた。



俺をとらえているもの全てから解放されたような気がした。



「う……うぅ」



目から熱い涙がこぼれだす。


自分でも正体の分からない感情が、一気にあふれ出す。



「うぁ……っく。うぅ……」



激しい雨に2人で打たれながら。


子どものように泣きじゃくる俺を、アリサはずっと包み込んでくれていた。