のだけれど…

片付けが残っていた。

あの人達が率先してやるはずもなく、教室に入ると飲みかけのペットボトルと使い終わった紙コップが乱雑に放置されていた。

生憎、頼りになるつばめちゃんは塾があるため先に帰ってしまい、雑用係で残っているのは私だけだった。

恨めしくゴミを一瞥し、片付けに取りかかった。







おおよそ片付けが済んだところでドアがガラガラと音を立てた。



恐る恐る振り返ると、そこには兵藤くんがいた。

椅子に座って少しくつろいでいた私は、急いで立ち上がり、ほうきを手にし、ゴミをはくふりをした。


「今掃除してたところです。サボってたわけではないです」

「見れば分かる」

「すみません…」


私がうつむいていると、兵藤くんがツカツカとこちらに近づいてきた。

淡い期待を寄せたが、呆気なくスルーされた。

自分の席に忘れた荷物を手に取るとそのままドアの方に向かって行った。



「頭ポンポンすると思った?」



ぎゃ、見透かされてる。

照れてさらに首を垂れる。


「もう少し自然に振る舞えないわけ?なんか、こう…ーーオドオドしててみっともない」

「そう言われても、私にも色々事情があるんです」

「何、色々な事情って?そんなの言い訳じゃん、自分を守るための」

「関係ない」


声がかすれて、空気と混ざり合う。


「何?聞こえない」

「兵藤くんには関係ない。私が今までどれだけつらかったか分からないでしょ!?みんなからチヤホヤされて、幸せな人生送ってきたんでしょ!?そんな人に私の気持ちなんて分からない!!」







ーーーあ…、言っちゃった。








兵藤くんを傷つけた…


終わった…


また1人敵が増える…


文化祭が終わったらまた地獄だ…








絶望感があまりにも大き過ぎて涙も出てこない。




「今ようやくキミが見られた」




ーーーえっ?




「もっと頑張れよ。そうすれば…」




最後は聞き取れなかった。



なんて言ったのか知りたくて聞こうとしたけれど、私の気持ちが声に変わる前に彼は行ってしまった。






最悪な日になっちゃった。



のに、

なぜか、

本当になぜか、

笑えてきた。


「アハハ…アハハハ…アハハハハ…」
 

そして、

泣けてもきた。


「アーーーーーン、ウワーーーーン」






こんなに感情を爆発させたのはいつぶりだろう?

知らない間に自分を抑えてたのかな?





もっと笑いたい。

もっと泣きたい。

もっともっと、自分を信じたい。






なら、負けちゃだめだ。

桜井乙葉は、こんなもんじゃない。

いつか必ず見返してやる。





ゴミにまみれながら、そう誓ったのであった。