「…ここであってるよね」

携帯の画面に表示された文字とにらめっこして、吊り下げられた看板とそれが一緒であることを確認する。

おそるおそる扉を開いて中に入ってみるが、そこはシンと静まりかえっていて人ひとりの気配もなかった。


「……?」


洲から送られてきたメールには、18時半開演と書いてあるのに。携帯に表示される時計は、ちょうど18時を過ぎたところだ。

まだ熱を持たない空気は、半袖からはみ出るあたしの腕にキュッと絡みつく。

疑問に思いながら歩みを進める。伴って響く足音。


「……!!」


目を丸くして、歩みを止めた。

他には誰もいないライブ会場のステージ、そのど真ん中に立っている後ろ姿。


「…よっ!」


振り向いた洲は、あたしの姿を見つけると嬉しそうに微笑んだ。


「洲…!!びっくりした、誰もいないから間違ったんじゃないかと思って…」

「ごめん、ホントは20時開演なんだよ。ライブ!ちょっと話したくて早めの時間を送らせていただいちゃいました。…ダメでしたか?」


ニッといたずらっぽく笑って、洲はあたしに向かって右手を差し伸べる。


「…ダメじゃないです」


むっと頬を膨らませてその手を取ると、洲はそのままあたしをステージへと引き上げた。


高くなる視界。広くなる世界。

洲にライブハウスを紹介してもらって、初めて来たときのことを思い出す。こうやって、同じように、洲の隣に立っていたこと。


『"桜の園"、もうお前らだけのもんじゃねえぞ』


やり遂げたいと、強く思ったこと。


そっと隣に視線をやると、優しく笑う洲がいる。だからあたしも、自然と優しい笑みになる。


…洲の隣で見る世界は、いつもと違って見えるんだ。



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