定時を過ぎ自動販売機で缶コーヒーを買うと、窓から吹く風に当たる。
なんとも言えない複雑な思いが、胸をざわつかせている。
矢崎が、自動販売機に小銭を入れたのが分かった。
俺に声を掛けずに去って行く、矢崎の手にしたミルクティの缶がに目に入った。
矢崎から、拒絶された気がした……
数日後……
また、亜由美が東京へとやってきた。
それほど用事があるとは思えないが、俺の事を気にしてきたのだと感じた。
「野川課長、お疲れ様です」
亜由美がにこやかに俺のデスクに近づいてきた。
「ああ、お疲れ様」
嫌な予感がして、一瞬怯んでしまった。
「あ―。木島さん、課長の彼女って本当なんですね。美男美女でお似合いです」
姫川の大きな声に、思わず矢崎の姿を確認してしまった。
「そんな大げさな…… お世話になっています、宜しくお願いしますね」
亜由美のいかにも自分の者だと言う言葉に嫌気がさす。
「矢崎さん、大阪支店の開発部の木島さんよ。以前私達が係わった、モールの店舗が大阪にも出店するのよ、その解発チームのチーフを担当されているのよ」
姫川、何故矢崎に声かけるんだ! と声を出したくなる。
「はじめまして、矢崎です」
「木島です。又、お聞きしたい事もあるかも知れません。よろしくお願いします」
亜由美と矢崎の会話に、俺は何故かヒヤヒヤしていた。
「それで、野川課長の彼女なんですって」
姫川がおどけたように言ってしまった。
俺はこの場で否定する事も出来ず、まるで胸の中が黒い塊に押し付けられているようだった。
「恥ずかしいわ」
亜由美が俺を見るが、気付かない振りをしてパソコンの画面へ目を向けた。
俺は、矢崎がどう思っているかが、心配でたまらなかったのに……
「そうなんですか。素敵なカップルですね」
矢崎の言葉と笑みに、俺は明らかにショックを受けた。
「そういえば、矢崎さん彼氏出来たんだね?」
「えっ」
矢崎が驚いた顔で姫川を見た。
「総務の子が、やさしそうな男の人といる所を見たって言ってたわよ」
俺の胸は一瞬、猛烈に締め付けられた。
「ええ、まあ……」
否定しない矢崎に、俺は目の前が真っ暗になり愕然とした。
「矢崎さん、可愛らしいもの、彼氏くらいいるわよね」
亜由美の声が煩わしい。
俺はたまらず……
「無駄話してないで、仕事に戻れ!」
厳しい言葉が出てしまった。
上司としての当たり前の言葉に過ぎないのだが……
上司としての感情などこれっぽちも無かった。
「おじゃましてごめんなさいね」
亜由美が言ったが、俺にはどうでもよかった。