デスクの上には、明日の打ち合わせまでに間に合わせなければならない資料が積み重なっている。

 今度、野川課長率いる企画チームが担当するのは、新しく出来きるマンションのモデルルームのデザインだ。

 必要とされる資料のまとめにパソコンのキーを叩く。

 チームのメンバーもそれぞれの担当に追われていた。


 課長に目を向けると、資料とパソコンを睨みつけている。
 その真剣な目に、私は企画チームへの期待を胸に膨らませた。


 課長は、声を上げて怒る事は無いが、仕事に対しては厳しい人で、あまり無駄な事を口にしない人だった。


 時計の針を見ると、八時になる…… 

 気付けば、企画部の中も人がまばらになってきていた。

 まとめ終わった資料に目を向け、グーっと腕を高く伸ばした。


「ご苦労様…… 帰れそう?」
 帰る支度を始めた姫川さんの心配そうな声がする。


「はい! 無事任務完了! 姫川さんも、早く帰らないと彼氏が怒り出すんじゃないですか?」

 私は、ストンと資料を整えて席を立った。


「も~。仕事で遅くなる事で怒るような彼氏なんていらないわよ」


「そうじゃなくて。わんこのベッキー君ですよ!」


「ああ。そっちね!」
 と姫川さんは言った後、声を上げて笑いだした。


 活気の無くなったオフィスに響く笑い声に、私もつられて笑いながら帰る支度を始めた。