面接の部屋へ入る。

「ああ、やっと良い人が来てくれたな」
(‥‥好印象だ)
「百人くらい面接に来るんだけど、どうもね。君くらいキャリアのある人が欲しかったんだよ」
「有り難うございます」
「いつから出勤できる?」
「はい、直ぐにでもお願いします」
「じゃあ、来週の月曜から来てくれる?」
「はい、じゃあ月曜日から出勤します」
「うん宜しくね。取り合えず最初、料理の方見てもらうから」
「‥‥コ、コックですか?」
「バーテンダーは若い子決めちゃったんだ。調理経験も結構あるからいいでしょう」
 こうして俺はその店のカウンターで又ガスレンジとオーブンの前に立つ事になった。仕方なく勤務しながらバーテンダースクールに通った。意識の中では自分は完全にバーテンダーになっていた。

 定期的に開催されているカクテル・コンクールに挑戦してみよう。
 最初に巡ってきたチャンスはジュニア・クラス、若いバーテンダーのコンペだった。怖いものを知らない俺は既に日本一のバーテンダーのつもりになりきっていた。
(ジュニア・クラスなんてチョロイもんさ、彗星のように突如現れタイトルを総嘗めにする新人現る!いいね‥)
 コンペティション当日、控室で周りを見渡すと自分より年下っぽいのが殆どで、女の子も沢山参加していた。俺はちょっと馬鹿馬鹿しくなる位で余裕の気持ちを覚えていた。
 会場で見てみると皆、自分とは何か違うやり方で競技している様に見えたが、それも連中の実力不足なんだと目に映った。

 審査発表。
 入賞者名が順に読み上げられるが最後のグランプリまで俺の名は無かった。不思議な気持ちで順位表を見に行くと、二十二名中二十一位‥。

 信じられなかった‥‥。

 その頃のコンペは最下位まで銅賞と云う事で全員に賞状が貰えた。その『銅』と書かれた賞状を持ち帰り見ていたら無性に涙が込み上げて来た。
「こんなもん、参加賞と同じやないか!」
俺はその賞状をビリビリに破り
(絶対全国大会クラスの選手になってやる)
そう堅く心に決めた‥。