自分から壊して初めて大切だったと思い知るなんてフレーズはもはや手垢のついた表現だが、腹が立つほどその通りだった。

好きって、何なんだろう。

簡単に関係を壊すことの出来る二文字。

黒くて、だけれども純粋で、何でも出来る気になってしまうほどに。

友人を捨てることさえ?

不意に頭の中に声が響いて、小夜は凍りついた。

背筋を氷塊が滑り落ち、どくんどくんと急に心臓の音が大きく感じた。

そんなこと。そう言い訳しかけた言葉が喉の奥で震える。

一度距離を置こうと思っただけだった。このまま葵の嬉しそうな横顔を見ていたら、素直な言葉が一つも口に出せないような気がしたから。

だのに、現実はただ私が逃げただけだった。

あの日、あの時の、葵の目を思い出す。

その向こうにがらんどうな闇があって、何も映していなくて、寒気のするほど哀しい瞳。