「うん、そうだね」
頷き返した小夜は、教室に入ってきた人影を認めて声を上げた。

「あ、佐島」
「ん…小夜?」

(え…)

思いがけぬ友人宛の言葉に、心臓が跳ねる。
とくとくと脈打つ音を聞きながら、葵は何も言えずに突っ立った。

(小夜、って)
たしか佐島は、小夜のことを及川と呼んでいたはずではなかったか。

少しの間に二人のお互いの呼び方が変わるほどの何かが起こったのか、と考えると胸の奥が鉛のように一瞬重くなった。

息苦しくなった空気は錯覚のようで、小夜の花のような笑みに現実に引き戻された。

「そういやね、転校生が来るんだって」
「はっ?この時期に?」

それはまた物好きな。

眉を上げた葵に、珍しく心なしか浮き足立った様子の小夜が話を続ける。

「そう、しかも格好いいって噂の男子!同じ学年だよ」