◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 逃げろ、走れ。


少女はもつれる足に心の中で叱咤した。

声に出していては体力を損なう。

後ろからはごうごうと大声をあげて追いかけて来る大人たちが迫ってきていた。

捕まってはいけない。


初見でどちら側の人間か分かってしまうほど、少女は状況に“慣れていた”。


白かったはずのワンピースは、泥まみれで美しいとは言えない。

視界の端に映るそれを少し悲しく思いつつ、彼女は必死に走った。


暗い雲から雨が降ってきた。


狭い道には入らずに、森を目指す。


人々にとって森は脅威となり得る場所だ。


得たいの知れない動物たちがうようよし、いつでも薄暗いからだ。

少女にとってもそれは例外ではないのだが、仕方がなかった。


森で動物に襲われるよりも、追っ手に捕まる方が酷い仕打ちを受けることを、彼女は学習していたのだ。