大きな声に、ポンヤリと顔を上げた私。

 目の前に立ち塞がった大きな体躯を、彼は唖然と見つめた。

「な、…くま…の?お前、どうしてここに?」

「き、っさまぁ…、大神ぃ!」

 荒ぶる熊野はブルブルと身体を震わせて、今にも飛びかからんばかりのイキオイである。
 
「こないだ同期会で言ったじゃないか!
 俺がトーコちゃんを好きだって事はよっ、約束したろうが。
 …貴様には男の友情ってもんがないのかぁ!」

「男の友情?バーカ、気持ち悪いこと言ってんじゃねえ。
 それよりお前、何でいるんだよ。仕事は?」

「くっ…、薄情者め。貴様とトーコちゃんが二人っきりで、泊付きだなんていうから…
 朝から静岡に張り込んで、お前逹が支社を出てからずっと見張ってたんだ」

「あの時の視線はオマエだったのか」
 フーッと疲れたため息をつく。

「その通り!それを貴様…、個室だなんて卑怯なマネを…くっ」

「お前さ、どこにいたんだよ…」

「電柱のウラだよ!さ、トーコちゃん、俺が来たからにはもう大丈夫」

 私に向かって差し出された大きな手を、大神さんがピシッと払った。