「気のせいですって…あ、見えました、あのホテルです。
 早く早くっ」

 ともあれ、早くこの緊張から逃れたい。
 
 それから目的地まで、しきりに後ろを振り返ろうとする彼の袖を捕まえ、私は小走りに歩き出した……



 ああ、やっと1日が終わる。

 この気詰まりから、ようやく開放される瞬間が来たのだ。

 感慨も深く、この何の変哲もないビジネスホテルを見上げた。

「それでは、リーダーまた明日。ご機嫌よう…」

「ああ?何言ってんだよ、飯行くだろ?」

「イエイエ私、少々疲れたので、ご遠慮させて頂きたく…」

 彼は私の腕をむんずと掴んだ。

「遠慮するな。奢ってやるから付き合え」

「え、え~‼」

 ちょっと待って!私の選択権は……

「よーし、今夜は飲むぞ、やってられるか、さっさと来ぉい!」

 そんなぁ……

 夢は潰えた。

 まあ彼のヤケクソは、半ば私のせいでもある。

 普段の怜悧をかなぐり捨てて、大股に鞄を振って歩く彼。

 私は、諦めてその後ろに従った。